『万葉集』中、スゲをよむ歌
→スゲ
集中、山菅については、別に「ヤマスゲをよむ歌」にまとめた。
白菅を詠う4首は、下にまとめた。白菅はシラスゲか。
いざ児ども 倭へ早く 白菅の 真野の榛原(はりはら) 手折りて帰(ゆ)かむ (3/280,高市連黒人)
白菅の 真野の榛原 往くさ来るさ 君こそ見らめ 真野の榛原 (3/281,高市連黒人の妻)
白菅の 真野の榛原 心ゆも 念はぬ吾し 衣に摺りつ (7/1354,読人知らず)
(真野は、一説に神戸市長田区東尻池町、一説に愛知県豊橋市から静岡県湖西町の辺りの白須賀の野)
葦たづ(鶴)の さわく入江の 白菅の 知らせむ為と こちたかるかも (11/2768,読人知らず)
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なお、以下に掲げる歌に出てくる 笠を縫うという菅には、カサスゲを含むであろう。
長歌
・・・ 天に有る 佐佐羅の小野の 七ふ菅 手に取り持ちて
久かたの 天の川原に 出で立ちて 潔身(みそぎ)てましを ・・・
(3/420,丹生王。スゲの根を祓いに用いた)
・・・ 千鳥鳴く 其の佐保川に 石に生ふる 菅の根取りて
しのふ草 解除(はら)へてましを 往く水に 潔(みそ)ぎてましを ・・・
(6/948,読人知らず)
しな立つ つくま佐野方 息長の 遠智(をち)の小菅
あ(編)まなくに い苅り持ち来 敷かなくに い苅り持ち来て
置きて 吾を偲はす 息長の 遠智の小菅 (13/3323,読人知らず)
・・・ 少なきよ 道にあ(逢)はさば
いろげ(色着)せる 菅笠小笠 吾がうな(頚)げる 珠の七条(ななを)と
取替えも 申さむ物を 少なき 道にあはぬかも (16/3875,読人知らず)
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短歌
奥山の 菅の葉凌ぎ ふる雪の 消(け)なば惜しけむ 雨なふりそね (3/399,大伴安麿か)
高山の 菅の葉凌ぎ ふる雪の 消ぬといふべくも 恋の繁けく (8/1655,三国人足)
春日山 山高からし 石の上 菅の根見むに 月待ち難き (7/1373,読人知らず)
真鳥住む 卯名手(うなて)の神社(もり)の 菅の根を 衣に書き付け 服(き)せむ児もがも
(7/1344,読人知らず)
奥山の 磐本(いはもと)菅を 根深めて 結びし情(こころ) 忘れかねつも (3/397,笠女郎)
奥山の 石本(いはもと)菅の 根深くも 思ほゆるかも 吾が念(おも)ひ妻は (11/2761,読人知らず)
足ひきの 石根こごしみ 菅の根を 引かば難みと 標のみそ結ふ (3/414,大伴家持)
湖(みなと)に さね(根)延(は)ふこ菅 しのびずて きみに恋ひつつ ありかてぬかも
(11/2470,読人知らず)
吾妹子が 袖を馮(たの)みて 真野の浦の 小菅の笠を 着ずて来にけり (11/2771,読人知らず)
かきつはた 開(さ)く沼(ぬ)の菅を 笠に縫ひ 着む日を待つに 年そ経にける
おし照る 難波菅笠 置き古し 後は誰が着む 笠ならなくに (11/2828;2819,読人知らず)
三島菅 未だ苗なれ 時待たば 着ずやなりなむ 三島菅笠 (11/2836,読人知らず)
王(おほきみ)の 御笠に縫へる 在間菅 有りつつ看れど 事無き吾妹 (11/2757,読人知らず)
人皆の 笠に縫ふと云ふ 有間菅 在りて後にも あはむとそ念ふ (12/3064,読人知らず)
真野の池の 小菅を笠に 縫はずして 人の遠名を 立つべき物か (10/2772,読人知らず)
あしがり(足柄)の まま(崖)のこすげ(小菅)の すがまくら(菅枕)
あぜ(何故)かま(巻)かさむ こ(児)ろせたまくら(手枕) (14/3369,読人知らず)
みなと(水門)の あし(葦)がなか(中)なる たまこすげ(玉小菅)
か(刈)りこ(来)わ(吾)がせこ(背子) とこ(床)のへだし(隔)に (14/3445,読人知らず)
真珠(またま)付く 越(こし)の菅原 吾苅らず 人の苅らまく 惜しき菅原 (7/1341,読人知らず)
み吉野の 水ぐまが菅を 編まなくに 苅りのみ苅りて 乱りてむとや (11/2837,読人知らず)
山代の 泉の小菅 おしなみに 妹が心を 吾が念はなくに (11,2471,読人知らず)
妹が為 菅の実採りに 行く吾は 山路に迷い 此の日暮しつ
(7/1250,読人知らず。採りに行くような実を生らせている)
うなはら(海原)の 根やはら(柔)こすげ(小菅) あまたあれば
きみ(君)はわす(忘)らす われ(吾)わす(忘)るれや (14/3498,読人知らず)
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旋頭歌
橋立の 倉埼川の 河の静菅 余が苅りて 笠にも編まぬ 川の静菅
(7/1284,読人知らず。神をシヅメル菅として神事に用いると云う)
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枕詞「菅(すが)の根の」(ねもころ・乱る・長き・絶ゆなどにかかる)
菅の根の ねもころごろに 吾が念へる 妹に縁りては ・・・
(13/3284,読人知らず)
押し照る 難波の菅の ねもころに 君が聞こして 年深く 長くし云へば ・・・
(4/619,大伴坂上郎女。怨恨の歌)
・・・ たづ(鶴)がな(鳴)く 奈呉江のすげ(菅)の ねもころに おも(思)ひむす(結)ぼれ
なげ(歎)きつつ あ(吾)をま(待)つ君が ・・・ (18/4116,大伴家持)
高山の いはほ(巌)にお(生)ふる すが(菅)の根の
ねもころごろに ふ(降)りお(置)く白雪 (20/4454,橘諸兄)
あしひきの 山に生いたる 菅の根の ねもころ見まく 欲しき君かも (4/580,余明軍)
浅葉野に 立ち神さぶる 菅の根の ねもころ誰ゆゑ 吾が恋ひなくに (12/2863,読人知らず)
奥山の 磐影に生ふる 菅の根の ねもころ吾も 相念はざれや (4/791,藤原久須麿)
見渡しの 三室の山の いわほ菅 ねもころ吾は 片念(かたもひ)そする (11/2472,読人知らず)
相念はず 有る物をかも 菅の根の ねもころごろに 吾が念へるらむ (12/3054,読人知らず)
菅の根の ねもころ君が 結びてし 我が紐の緒を 解く人はあらじ (11/2473,読人知らず)
菅の根の ねもころ妹に 恋ふるにし ますらを心 念(おも)ほえぬかも (11/2757,読人知らず)
菅の根の ねもころごろに 照る日にも 乾(ひ)めや吾が袖 妹にあはずして
(12/2857,読人知らず)
いなと言はば 強ひめや吾が背 菅の根の 思ひ乱れて 恋ひつつもあらむ (4/679,中臣女郎)
おぼぼしく きみ(君)を相見て 菅の根の 長き春日を こ(恋)ひ渡るかも
(10/1921,読人知らず)
相念はぬ 妹をやもとな 菅の根の 長き春日を 念ひくらさむ (10/1933,読人知らず)
かきつはた 開(さ)く沢に生ふる 菅の根の 絶ゆとや君が 見えぬこの頃 (12/3052,読人知らず)
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